VR技術が普及してくると、その仮装空間中のモノに触りたいというニーズが高まることは間違いないでしょう。
ところが、触覚を提示できる装置はまだ少なく、値段も数万円~10万円以上で、手軽に試せるものではありません。
そこで本記事では市販の部品を使って安価に作れる「触力覚デバイス」を紹介します。

■ 竹内 伸(たこぴん)

「VR元年」と触覚技術

 2016年は「VR(普及)元年」ということで、さまざまな分野の展示会でVRが利用されました。

 VR自体は20年以上前からある技術で、これまでにも何度かVRブームがありましたが、なかなか普及には至りませんでした。
 その原因は、①体験の広がりに見合ったリーズナブルな価格の機器がなかった、②あったとしてもそれを広める場がなかったの2つが大きいと思います。

 ①についてはOculus社が一般開発者向けに低価格で販売した「Oculus Rift」を発端として、さらにより低価格で楽しめる「CardBoard」「ハコスコ」などの「スマホVR」が後押ししているということがあります。
 また、②については企業が中心となってコンテンツを作るだけではなく、Unityなどの安価に始められる制作環境によって、オープンコミュニティの開発者がさまざまなVRコンテンツを作ったということがあります。

 VRでいろいろ仮想世界が見渡せるようになると、次はその中のオブジェクトに「触りたい」という欲求が芽生えてくると思います。
 しかし、仮想世界を触るための「触覚提示技術」はまだ安価な製品は少なく、VRと同様に普及のための条件を揃えていく必要があると考えています。
 そのため、筆者らは、オープンな環境で触覚コンテンツを作る「ショッカソン」を2014年から開催してきました。

※本誌2016年10月号でも紹介。

 「ショッカソン」は、大学などで研究開発されている「触覚デバイス」を中心に、多くの「触覚関連技術」を提供技術とし、24時間で作品をつくり、競い合うというイベントです。
 「ショッカソン」で登場した技術の中にも商品化されるものが出てきていますが、価格帯はまだ数万円~十万円であり、VR普及と比較すると、「スマホVR」に相当する領域がまだないということになります。

 そこで本記事では、数千円程度の材料費で比較的簡単につくることができる「触覚デバイス」を2つほど紹介したいと思います。

テクタイルツールキット

 1つ目は慶應義塾大学大学で考案された「テクタイルツールキット」です。

テクタイルツールキット

 それまでの多くの触覚技術は、たとえば手のひら程度の触覚提示領域を動かすために、その背後にたくさんのモータなどを配置して精緻な触覚を提示するというものがほとんどでした。
 それに対して、「テクタイルツールキット」ではたった1つの振動素子だけで、とても高いレベルの触感体験を生み出していました。

 その秘密はユーザーに触覚を意識させる「触覚提示部」にあったと思います。
 従来の触覚提示技術では、汎用的にするため、「手にはめるグローブ」や「ゲームコントローラ」など、ユーザーに特殊な装置を持っていることを意識させるものでした。
 それに対して、「テクタイルツールキット」ではユーザーが持つのは、ただの「紙コップ」と、そこに発生する振動を録音そして再生させる装置という、非常に割り切った構成でした。
 しかし使い慣れた「紙コップ」が「振動」していることで、「コップ」の内容物の慣性力や重量感などが脳内で勝手に補完されてしまうのです。
 コンテンツのシチュエーションとしては限定的ではありますが、従来にないリアリティの高い体験を生み出すことに成功しています。